第36章 先輩に彼女ができた?

別荘の重々しい門が、彼女の背後でぎい、と音を立てて閉まる。

南坂海乃は振り返りもしないまま、その場を離れた。

秋の風はもう冷たさを含んでいて、肌を撫でるたび、さっきまで室内に溜まっていた熱だけが少しずつ冷めていく。海乃はトレンチコートの襟元をきゅっと寄せ、足早に歩いた。

ここはA市の高級住宅街。山と水に抱かれた景色は申し分ないが、唯一の欠点がある。

――タクシーがつかまらない。

一キロほど歩いて、ようやくロータリーのある交差点で「空車」表示のタクシーを見つけた。

手を上げて止めようとした、その瞬間。

視線が、何かに灼かれたみたいに止まった。

道路の向かいに、瀟洒なフランス菓子...

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